マタハラとは。原因やケース、改正法を知り、問題や対策を考える。

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男女雇用機会均等法、育児・介護休業法などが改正されれ、ハラスメントへの事業主の対応が義務化されました。ハラスメントと言っても実に様々ですが、今回は特に女性活躍推進に関連の強い「マタハラ」について皆さんと考えてみたいと思います。

マタハラとは。原因やケース、改正法を知り、問題や対策を考える。

マタハラとは

マタハラとは、企業で働く女性が、妊娠や出産を理由に解雇や雇い止めをされたり、妊娠や出産に際して職場で受ける精神的・肉体的ないやがらせやいじめなどのこと。正しくは、マタニティハラスメントと言います。マタハラは、「個人的に行われる嫌がらせ」だけではなく「組織的に行われる嫌がらせ」もあります。

2019年6月に女性の職業生活における活躍の推進等に関する法律等の一部を改正する法律が公布され、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法が改正されました。

2020年6月1日に施行されたこの改正法施行によって、職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)防止のために、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となりました。

また、この改正法には、パワーハラスメントだけではなく、セクシャルハラスメント(セクハラ)、マタハラ(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント)についても事業主の対応を求めています。(詳細は後述します)

パワハラやセクハラについては、よく耳にすることもあり、「知ってる」「十分注意してる」という方も多いはず。これに対して、マタハラについては「まだ知らない」という人が多いかもしれません。

女性活躍推進法が改正され、101人以上の企業の多くが女性活躍推進に取り組む中、育児休業の取得率の向上に努める企業は少なくはありません。

つまり、マタハラについては特に「知らない」では済まされないことになったと言えます。

マタハラの原因とは

マタハラの原因となるものとしてよく言われているものは次の2つです。

1.性別役割分担の意識

日本では「男性は外で働き女性は家事を担う」というように、性別によって担う役割が違うという意識が古くから根付いており、その意識がバイアスとしてはたらいてしまうことにより、マタハラが起きてしまうケースがあります。

例えば、妊娠してしまったこと告げた上司が「妊娠したの?じゃ、子育て忙しいから辞めるんだね?」というような発言をしてしまうことなどの背景には、このような意識があることが考えられます。

また、職場だけに限らず、家庭で男性のパートナーが仕事と家事の両立について理解していない、あるいは家事や育児への協力に積極的ではないということも、もしかすると同様の背景によるものかもしれません。

2.長時間労働

職場に長時間労働が根付いていると、産休や育休がとりにくいという場合があります。関連法へ対応して制度設計はできているものの、実態としては職場慣行、風土などが原因となり、制度の運用を阻害するケースなどが該当します。

例えば、妊娠したことを同僚に話したことがきっかけで「忙しい時に、あなたの分の仕事のしわ寄せがくるから迷惑」といった発言を繰り返ししてしまう、ということが起きてしまうことも。

また、長時間労働が常態化している職場の場合、妊娠した本人が、産休や育休を取りたいということをなかなか言えないことや、本来、産休や育休は取れるものであるにもかかわらず、周りにだれも取った人がいないため、取れるとは思っていないということもあります。

どんなことがマタハラに該当するケースに?

それではどんなことがマタハラになってしまうのでしょうか。このコラムの冒頭では、「個人的な嫌がらせ」、「組織的な嫌がらせ」があると言いましたが、もう少し詳しくみていきたいと思います。

厚生労働省のWEBサイトに公開されているマタハラのケースは大きく分けて次の2つのようです。

1.「制度等の利用への嫌がらせ型」(p.11)

産前休業、育児休業、時短勤務などの「制度または措置(制度等)の利用に関する言動により就業環境が害されるもの」

この「制度等の利用への嫌がらせ」は、読んで字のごとく、制度を利用する・しようとするときに起こるものですが、具体的には、次のようなものが挙げられます。

  • 制度利用をしようとしたら解雇や復帰後の昇進・昇格の見送りを示唆するような発言をすること。
  • 制度利用をしないような発言をしたり、利用を取り下げをするような発言をすること。
  • 制度を利用したことで雑用などの仕事をあてがう。
  • 制度利用したことが「迷惑だ」などといった発言をすること。

2.「状態への嫌がらせ型」(p.14)

「女性労働者が妊娠したこと、出産したこと等に関する言動により就業環境が害されるもの」

この「状態への嫌がらせ型」は、「妊娠をした」、「出産をした」といった状態に対して起こるものですが、具体的には、次のようなものが挙げられます。

  • 妊娠などをしたことで、解雇を示唆するような発言をすること。
  • 妊娠したことについて、繰り返し又は継続的に嫌がらせ等をする。
    例:「忙しいのに、こんな時期に・・・」、「いつ休むかわからない人に仕事を任せられない」といった発言を繰り返す。

以上を、マタハラが起きるタイミングとしてまとめると、マタハラは「妊娠解雇」や「産休・育休取得時と復帰時」に起きるものだと理解することもできます。

また、以上のように、嫌味を言ったり、時短を許さなかったり、辞めるように促したりという、直接的なものだけではなく、出産したら家庭に入るものという意識から、両立期の社員へ過剰配慮してしまうことが、本人の意にいにそぐわない結果を生んでしまっているというケースもマタハラに該当すると言えます。

マタハラが起きてしまうとどうなる?

次にマタハラが起きるとどのようなことにつながるのかを抑えておきたいと思います。

1.本人が退職してしまう

嫌がらせに耐え切れなくなる、産休や育休を取ることを諦めてしまう、仕事と育児の両立にストレスを感じてしまうなど、理由は様々に考えられますが、いずれにしてもマタハラが起きると「本人が退職してしまう」ということにつながりかねません。

女性社員の構成比率を向上したい企業としては、せっかく採用した女性社員が辞めてしまうと、目標への到達が遠のくことにつながりかねません。

2.マミートラックに陥ってしまう

仕事と育児の両立期にある女性が、昇進や昇格とは縁遠いキャリアコースに乗ってしまうことをマミートラックと言います。時短勤務がしやすいようにと補助的な業務があてがわれたりすることで、出世コースから外れてしまうといったケースです。

女性管理職比率の向上を目指す企業としては、将来の管理職候補を育成できないことにつながりかねません。

3.組織の魅力度低下。優秀人材獲得の阻害要因

今日の企業は社会的責任を果たしているか否かが評価の分かれ目になっているといっても過言ではありません。

例えば、SDGsの目標の1つに「ジェンダー平等を実現しよう」ということが掲げられていることからも女性の活躍を推進している企業は、外部から魅力ある組織として評価されるといえます。また、そのような目標について取り組みを推進している企業は、優秀な人材が「ともに働きたい」と思う可能性が高くなると言えるのではないでしょうか。

マタハラが起きてしまう企業は、このような企業の評価や魅力の低下につながることが懸念されます。

マタハラへの5つの対策

マタハラへの対策として考えられるものは、主に次の5つと言えます。

1.制度を整備する。円滑に回るようにする

制度を整備することだけでは十分ではなく、それが利用されるように運用することも欠かせません。

例えば、育休の取得率目標を定め、その目標値と現状の差がどれくらいあるのかを調査したり、目標と現状との間に乖離がみられる場合は、その原因となるものが何なのかを探るためのアンケートを実施することで、自社の育休取得率のボトルネックとなるものが明確になる可能性があります。

もちろんボトルネックが明確になった場合は、そこへの打ち手を検討し、実行することも欠かせません。

2.周知徹底し、実践する

マタハラ防止への対応が企業にとっての義務であることや、どのようなことがマタハラに該当し、何をやってはいけないのかといったことを社内に周知徹底することが重要です。

ですが、周知するだけでは不十分な場合がありますので、定期的にアンケートなどを実施し、周知した内容が徹底されているのかを把握し続け、現状を可視化することも重要だと言えます。

可視化することで、周知事項が現場で実践されれているかどうかを捉え、定着を図ることが期待されます。

3.女性本人や上司への直接的な支援

研修やセミナーを開催し、育休取得への理解を促したり、両立期や両立期後の本人のキャリアのイメージを明確化する、あるいは、上司とともに研修に参加してもらい、両立期や両立期後のキャリア形成のステップを互いに理解する等が考えられます。

女性社員が少ない企業の場合は、同様の状況にある他の企業の女性社員との交流の機会を設けたり、ロールモデルとなる女性を招いたセミナーを開催するなど、方法は様々に考えられますが、いずれにしても女性社員が仕事との両立を前向きにとらえることができるようにすることが重要です。

リプロキャリアでは、女性活躍推進に関する情報の提供や、研修、セミナーの開催などを支援しておりますので、何かお困りのことがあれば、気軽にご相談ください。

4.相談窓口を設置する。リファー先の情報を提供する

定期的にアンケートを実施するだけではなく、常に相談できるような窓口を社内や社外に設けておくことも重要な対策の一つです。

マタハラについての相談窓口を設けてイントラや社内報で告知したり、社内・外にキャリアカウンセラーを置きキャリアの相談ができるようにするなど、自社の状況に応じて必要な相談先をつくるとよいでしょう。

あるいは、育児について専門的な相談が必要な場合に相談できる施設の情報なども合わせて提供すると本人の不安の解消につながると言えます。

5.関連する法律について正しく理解する

マタハラに関連する男女雇用機会均等法、育児・介護休業法において、何が義務となっているのかを抑えておく必要があります。

厚生労働省のWEBサイトには次のように事業主が取り組むべきことを明記しています。これらの内容を、社員も理解しておくことで、マタハラを未然に防ぐことにつながる可能性が高くなりますのでぜひ参考にしてみてください。

職場におけるハラスメントを防止するために、事業主が雇用管理上講ずべき措置が、法及び指針に定められています。事業主はこれらを必ず実施しなければなりません(実施が「望ましい」とされているものを除く)。

      1.事業主の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に対してその方針を周知・啓発すること
      2.相談、苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること
      3.相談があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者及び行為者に対して適正に対処するとともに、再発防止に向けた措置を講ずること
      4.相談者や行為者等のプライバシーを保護し、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
      5.業務体制の整備など、職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するために必要な措置を講ずること

これらの措置は、業種・規模に関わらず、すべての事業主に義務付けられています

出典:厚生労働省WEBサイト

その他、マタハラに関連する用語

最後に、これまでに見てきたマタハラに関連する用語を、参考までに2つだけご紹介しておきます。

パタハラ

パタハラとは、育児休業等の制度を利用しようとしている・あるいは利用した男性社員に対して、上司や同僚が嫌がらせをすることを言います。正式名称はパタニティ・ハラスメントです。

マタハラと同じように、昇進・昇格をさせない(そのような示唆をする)、育児休業の取得をさせない(取得しないよう示唆する)といったことが該当します。

プレマタハラ

プレマタハラとは、妊活について行われる解雇や雇い止め、いやがらせやいじめなどのことを言います。正式名称は、プレ・マタニティハラスメントです。

「妊活に使う時間があるなら、もっと仕事に身を入れて欲しい」といった言動などが該当します。

まだそれほど認知されていない用語ですが、不妊治療への保険適用拡大が注目されるようになったこともあるため、このハラスメントについてもある程度の理解をしておいた方がよいかもしれません。

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