パタハラとは。起きやすい理由や事例。関連法や職場の対策について。

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2020年6月に改正育児・介護休業法が施行され、また同年10月より厚生労働省の諮問機関「労働政策審議会」で男性の積極的な育児への参加の推進や男性の育児休業取得の義務化について議論が行われ、「男性の育児休業取得」について注目が集まりました。他方で、日本ではまだまだ男性の育児休業取得率は低いのが現状です。その原因の一つとして挙げられるのが「パタハラ」です。今回はこのパタハラについて皆さんと考えてみたいと思います。

パタハラとは。起きやすい理由や事例。関連法や職場の対策について。

パタハラとは

パタハラとは、男性社員が育児参加をするために育児休業(育休)を申請・取得する際などに、職場の上司や同僚からいやがらせ(妨害するような行為、言動など)を受けること。パタニティ(Paternity)とは英語「父性」を意味します。つまり、このようないやがらせは男性社員の父性の発揮、家族としての男性の役割を発揮するための権利や機会を妨害することとも言えます。ちなみに、パタハラは、正確には「パタニティ・ハラスメント」と言います。

女性社員が妊娠・出産・育児に際して受けるマタハラは以前より注目されていました。ですが、2020年10月~12月に、厚生労働省の諮問機関「労働政策審議会」の雇用環境・均等分科会で、男性の積極的な育児への参加の推進や男性の育児休業取得の義務化について議論活発におこなわれ、パタハラもまた注意すべきハラスメントの一つとして挙げられるようになっています。

パタハラが起きやすい背景や理由

なぜこのようなハラスメントが起きてしまうのでしょうか。その背景や理由として挙げられるのは次のようなものです。

1.そもそも男性社員の育休休業の取得率が低いこと

育休取得の目標を定めている企業が多い一方で、実態としては育休を取得している男性社員は少ないという現状があります。

日本人は右へならえの傾向が強く、他の人が育休を取得していないとなかなか申請しづらいということもあり得ます。周りの人が育休を取らないと、自身の昇進や昇格などの遅れにつながるのではないかという思い込みなどが影響しているかもしれません。

また、「令和2年版男女共同参画白書」を見ると、日本では管理職に占める男性の割合が高いのが現状です。管理職だと自身の仕事の他に、マネジメント、部下の育成など業務は多岐にわたるため、部下にうまく仕事や権限を委譲できていないと、育休が取りにくい、あるいは取りにくいと思ってしまうという可能性もあります。

2.性的役割に対する意識の根深さ

「男性は外で働き、女性は家庭を守る」というような、いわゆる「性別役割分担意識」がまだまだ根強く残っている企業はあるかもしれません。

例えば、「令和2年版男女共同参画白書」に、男性が「女性が職業を持つことに対する意識」について紹介しているデータがあります。

最新の調査データ(2019年)の男性の回答を見ると、
「結婚するまでは職業を持つ方がよい」5.9%
「子供ができるまでは、職業をもつ方がよい」6.7%
というように、結婚や出産によって女性が仕事を辞めることについてポジティブな回答をする人が10%強いることがわかります。

このような意識が残っていることが、逆に男性社員に対して、「男のくせに育児で休むなんて」といったバイアスに繋がってしまう可能性は否めないでしょう。

3.長時間労働

育休を取得する以外にも、実は男性が育児へ参加するための方法はあります。例えば、多様な働き方ができる制度を設けている企業では、短時間勤務やフレックス勤務を活用することで休業しなくても育児に参加するといった具合です。

ですが、長時間労働が常態化している企業の場合、このような制度があっても「活用しにくい」可能性は否めません。

「忙しい時に働かないのは迷惑」と感じる同僚がいたり、「職場の仕事を短時間しか担えない人には仕事を任せられない」と感じる上司がいたりする場合、そのような感情が行動や言動に出てしまい、パタハラにつながることも懸念されます。

また、男性社員本人が「こんな時に自分だけ休んでいられない」と感じてしまい、育休、時短、フレックスなどの制度を活用するという選択肢を捨ててしまうということにもなる可能性はあります。

パタハラの事例 ~どんなことがパタハラに該当するのか

端的に言うと、「育休を取得しようとすることを妨げられる」「育休からの復帰後、上司や同僚にいやがらせを受ける」といったことがパタハラに該当する事例です。そして、このようなことが行われた結果、裁判に至ってしまったケースがいくつかあります。

医療機関Aにおけるパタハラの事例

3ヵ月以上の育休を取得した男性看護師が復帰した後、職能給を昇給されず、さらに昇格試験の受験資格が認められませんでした。
この行為が介護・育児休業法で禁止される不利益な取扱いに該当し違法であるとして男性看護師は提訴しました。
結果、これらの昇給を認めなかったこと、昇格の機会を認めなかったこといずれも不法行為という判決が出ています。

メーカーB社におけるパタハラの事例

第一子の誕生の際に育児休業を取得した男性社員が復帰後に子会社に出向を命じられました。そして、復帰後の仕事内容は、復帰前と全く異なるものとなりました。
このことを弁護士に相談後、本社に戻ることになるも、任される仕事は雑務など。
その後、第二子の誕生に伴い育児休業を取得し復帰。復帰後の仕事は単純作業のようなものとなりました。
男性社員は、以上の一連の対応などがパタハラに当たるとして提訴しました。

パタハラ防止は企業の義務。時に違法とされることも。

2019年に育児・介護休業法が改正。同法が施行された2020年6月より、企業は職場におけるハラスメント防止のために、雇用管理上必要な措置を講じることが義務(防止措置義務)となりました。(育児・介護休業法第25条)

パタハラに関して言えば、企業は、育児休業等に関するハラスメント防止のために、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、その他の雇用管理上必要な措置を講じる必要があります。

そして、同法では、育児休業の申請や取得を理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならないとしています(育児・介護休業法第10条)。

具体的には、次のような「不利益な取扱い」をした場合は違法となります。

  1. 解雇すること。
  2. 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと。
  3. あらかじめ契約の更新回数の上限が明⽰されている場合に、当該回数を引き下げること。
  4. 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規雇用社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。
  5. 就業環境を害すること。
  6. 自宅待機を命ずること。
  7. 労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、 深夜業の制限又は所定労働時間の短縮措置等を適用すること。
  8. 降格させること。
  9. 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。
  10. 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと。
  11. 不利益な配置の変更を行うこと。
  12. 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと。

参考:厚生労働省パンフレット「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました︕」(p.17)

先に紹介したように、裁判へと発展することもありますので、特に注意が必要です。

パタハラが起きない職場にするには

最後に、皆さんの職場でパタハラが起きないようにするためにおさえておきたいポイントをいくつか紹介します。

1.相談窓口の設置

防止措置として挙げられるように、相談できる窓口を設置することが重要です。

例えば、上司が育休取得を渋るような態度を示した場合、直接に対応することが難しい場合など、相談する窓口があれば状況は解決に向かうことが期待されます。また、実際にパタハラを受けた場合に、職場に相談する相手がいないというような場合には、相談窓口が心のケアやアドバイスを提供できる場となるでしょう。

2.状況の可視化

他者の男性社員の育休取得率の状況と比べて、自社はどのような状況にあるのかを開示するという方法も考えられます。そうすることで、男性社員の育休取得は世の中で広く認められていることがわかるようになります。

また、育休取得率目標を定め、それに対して自社の状況がどのよう担っているのかを開示すという方法もあり得ます。目標が明確になることで、自社が向かっている方向性が見えてくれば、育休を取得することに意識が向かう可能性があります。

3.制度の確立と周知

育休取得のための制度を社内で確立することは重要です。具体的には、時短勤務やフレックス勤務を可能にしたり、リモートワークを認めたりというように、仕事と育児が両立が可能な環境を制度として確立するという方法があります。

また、制度を作ったとしても周囲の理解が不足することでその活用が妨げられないように「男性も育休を取得する」ということを周知することも欠かせません。

4.社員の意識醸成

「仕事と育児の両立は自分事」という意識が持てるように社員に促すのも必要なことの一つでしょう。両立が他人事のままではそのことに理解が進まないため、無意識にパタハラに該当する行為や言動に至ってしまう可能性も否めません。

また、上司が適切な態度、評価などができるように、啓蒙活動をするといった方法も考えられます。

意識的でも無意識でも、パタハラが起きにくくするために、専門家や講師を招き研修やセミナーを実施することも有効と言えるでしょう。

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労働力人口の減少が進み、生産性の向上が重要なテーマとなっている今日の日本では、多様な人材の活躍を目指す企業が増えてきています。

働く人も、一人ひとりのキャリアを実現するために様々な働き方を選択できるようにすることで、企業は、その目指す姿に近づくことができるのではないでしょうか。

人は、キャリアの中で仕事以外にも様々な役割を担うもの。つまり、仕事と何かの両立は常に起こりうることだということは、見落としがちですが、忘れないようにしておくことが重要です。

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