部下が子宮腺筋症になった。配慮はどこまで?適正なマネジメント方法は?

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管理職であれば誰しも、ある日突然に部下から「話がある」と呼び出された経験があるだろう。おめでたい話であればいいのだが、経験上、あまり良い話ではないと身構える管理職も多いのではないだろうか。会社からは、メンタルヘルスや転職、妊娠などの相談があった場合の対処法は教育を受けているが、子宮腺筋症という飛び道具が出てきた。一体どこまでコミット要求できて、どこから配慮が必要なのか?本記事では女性ならではのセンシティブ案件への対応の仕方について紹介する。

そもそも子宮腺筋症とはなにか

  • 強烈な生理痛が2,3日続き、その痛みは出産以上と表現する人も。病気が進むと、痛みは毎日になることもある。
  • 生理時の大量出血。症状が進むと、ナプキンではなくオムツを使用しても30分で血が下着に漏れ出す人もいる。
  • 基本的にはホルモン治療薬を飲み続けるしかない。症状が深刻になった場合は子宮摘出。
  • 不妊症との関連が指摘されている。
  • 痛みや出血による健康面の不安と仕事の両立で、精神的に不安定になるケースも多い。

以上を読んでもらうと、子宮腺筋症が女性にとって深刻な病気であることがわかってもらえるだろう。ではどこまでの配慮が必要で、どこまでパフォーマンスの期待をしてもいいのだろうか。その前に、現在の日本の労働市場の問題について考えていきたい。

多様性を認めざるを得ない、日本の労働人口のひずみ

少子高齢化が叫ばれる昨今の日本だが、実際にどの程度の深刻化が進んでいるのかご存じだろうか。

いま記事を読んでいる読者が40代だったと仮定しよう。読者が新社会人として入社した2000年代初頭から2020年の僅か20年で、日本の労働人口は約1300万人、つまり15%減少している。今後の20年で労働人口は更に減り続け、最終的に2000年から2040年までの読者の社会人生の間に約2800万人、30%減少すると推定される。

現在中間管理職として上からの数字の突き上げを受けている読者は20年後、果たして30%減った戦力で会社の求める期待役割を全うできると考えているだろうか。

更に今後は団塊世代の高齢化により、日本を未知の介護離職が襲う。既に日本の介護離職は年間10万人を突破している。減り続ける労働人口と、自身や同僚も高い確率で巻き込まれるであろう介護問題。

加えて、自分らしさを追求するライフスタイルによる、旧来の軍隊型マネジメントスタイルの終焉。近い未来の人手不足は明らかだ。

将来、社内を見渡すと育児や介護で時短勤務をする社員、残業を拒否する若者、副業に精出す中堅社員で溢れ、気づいたらフルタイム勤務で会社にコミットできる自分はマイノリティになっているかもしれない。もやは「残れるやつだけが残ればいい」時代は終わり、「多様性でもなんでもいいから、会社に残って戦力になってもらう」必要が出てきたのだ。

この急激な労働人口の変化の中で、フルコミットできない社員に対してどのようなスタンスで行くべきか。おのずと答えは出ることだろう。

さて、次の章では、具体的な子宮腺筋症の部下への対処法を考えていきたい

具体的な部下への対処法

味方である事の意思表明をする

女性器系の病気は非常にナイーブである。本人もどこまで話をしてよいかわからず、また上司もどこまで聞いてよいかわからない、という状況で探り合いのミーティングになる事も多い。

結果として、中途半端で中身のない話し合いになってしまう可能性がある事を知っておいてもらいたい。まずは病気を告げられたら、自分が味方であり支援をしたいと思っていることを伝え、状況を包み隠さずに部下が話せる雰囲気を醸成することが重要だ。

ここで注意したいのが、常に上司と部下(特に男性上司の場合)のコミュニケーションはすれ違いが起こりやすいという事だ。悪意はなくても「課題は?どうやったら解決できるの?」と問題解決一直線で行くと部下の信頼を失うから注意しよう。

現在の状態を把握し、通院を積極的に勧める

一口に子宮腺筋症といっても、症状は人によってさまざまだ。生理痛や大量出血の他にも、様々な症状が発生する。どのような症状が出ていて、どんな業務に支障が出ているのか聞いてみよう。

また、本人がきちんと病院に行っているとは限らない。責任感の強い女性や、休暇に恥ずかしさを感じている女性は往々にして無理を押して会社に行っていることが多い。つまり、治療が必要であるにもかかわらず、病気を放置して、症状を進ませてしまっている可能性があるということだ。詳しくは(子宮腺筋症の専門医に聞く、最新の治療情報① 腺筋症に関する最新データ)を読んでもらいたいが、子宮腺筋症はまだ研究が発展途上の病気だ。ホルモン治療薬を飲み続けなければならない事を知らなかったり、薬が合わないからと治療放棄をしてしまう女性は一定数存在する。そしてしっかりとした知識を持ち合わせていないケースも多い。だが治療を怠ると、当然休みも増えてくる。症状も悪くなる。その状態を続けると子宮摘出や、メンタルバランスを崩して退職に至る事もあるのだ。

当事者の女性より上司の方が子宮腺筋症に詳しいというのもおかしな気もするが、是非その事を伝えて、通院し治療にしっかりと取り組むように指導しよう。

休暇連絡の負担を軽くする

会社によって休暇連絡はまちまちだ。LINEで「休みます」と一言連絡すればOKのカジュアルな職場もあれば、手書きの休暇届で理由を明記させる職場もあるだろう。しかし、生理痛や通院で休むと毎回毎回報告する部下の気持ちを想像してほしい。恥ずかしさ、休むことに対する申し訳なさ、仕事への焦り、、、。誰でも、休みの理由を伝える必要がなければどんなに楽かと思ったことはきっとあるはずだ。もし管理職としての裁量があるなら、紙の届出を提出しなくてもよい、理由は不要、連絡はメールでOKなどの提案をし、休暇や通院に関する心理的な負担を取り除ける体制を提供しよう。

同僚への周知について本人の意思を確認する

個人プレーの職場であれば休んでも周囲への支障は最小限に抑えられるかもしれないが、販売や飲食など、1人休むと現場が崩壊する職場も存在している。その場合には、周囲にやんわりと事情を伝えた方が現場のフォローアップがスムーズに進む可能性がある。あくまで本人の意向次第ではあるが、本人が開示しても良いという事であれば、同僚に伝え、前向きにフォローアップの仕組化を図るようにすることが可能だ。

どこまでコミットしてもらえるのか確認する

これまでは部下がいかに仕事を継続できるのか、そのサポートの観点から話をしてきた。しかし、仕事として給料が発生する以上、責任も当然発生する。その点については、正々堂々と伝えるべきであるし、本人にその意識が低かった場合には管理職として指導をするべきである。勿論、部下の体や精神状況を鑑みながらではあるが、これまでの部下との話し合いで得た情報を基に、どこまで任せられるのかを話し合う必要がある。困難な環境の中でも部下のモチベーションマネジメントを行い、最大限のパフォーマンス引き出せるかどうか、管理職の腕の見せ所だ。

成果の為に会社として必要なサポートがあれば提供し、「握る」

これまで様々な局面を乗り越えてきたビジネスパーソンの読者であれば、結局何事も最後はバランス感覚と双方の「握り」であることは十分承知しているだろう。もし部下がパフォーマンスを発揮する為にサポートを必要とするのであれば可能な限りそれを提供し、交換条件としてアウトプットを要求する。アウトプットを要求し続けることは、結果として本人が病を抱えながらも会社で長く働く為に良い経験となるはずだ。

多様性のある職場でセーフティゾーンを提供し続ける事が、これからの管理職の仕事

米グーグルが2012年から開始した社員の生産性に関する調査によると、生産性の高いチームの共通点はチームワークやチームカルチャーではなく「他者への心遣いや同情、あるいは配慮や共感」があり「心理的安全性」が担保されているチームだという事が判明した。今後、様々な条件の社員が多様性を容認しながら働いていけるのか、日本も、読者の組織も、大きな転換期に差し掛かっていると言えるだろう。

子宮腺筋症という悩みを抱えながらも働き続けたいと考える女性社員の想いに応えられるか。自分のマネジメントスタイルは時代の変化に対応できているのか。読者自身にとっても、そして会社にとっても、一つの社員の個別の事情として捉えずに、前向きに変化を遂げていくチャンスと受け止めて対応していってほしい。

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